風に吹かれて

何を話したのかあまり覚えてなくて、私は心を見透かされないようにしたかった。おじさんに「タクシーの運ちゃん(マサさん)と俺とどちらを選ぶ?」と聞かれた気もするし、そんな言い方じゃなかったかもしれないけれど、私はマサさんと答えたと思う。

お店は二時間制で、まだ八時半だった。

私はおじさんに十時過ぎにホテルに戻りたいと伝えていた。気を使ってくれたのか、ホテルに戻るには早いので表参道に続くであろうガードレールに腰をかけて、通行人を見ながら話をした。

私はお店で食べた美味しかった料理よりも、風に吹かれてガードレールで話した一時間をとても自分の中で大切にしている。

今も思い出す。きっと忘れない。

おじさんの右横に腰掛けた。お店の時よりも距離が近づいて嬉しかった。お酒も飲んでいて気分が良かった。

外国人観光客と帰り道を急ぐ人と、これから飲みに行く人がたくさん行き来していた。大きな白い犬が散歩されていた。

私はおじさんに聞いた。「会社では部長さんか何かなの?」『ううん、副キャプテン』とおじさんは答えた。

その意味が私は分かったし、酷く驚いた。「そうは見えないね」と笑うと『副キャプテンはキャプテンがいないとなれないから』と笑った。

東京の街は沢山の人で、いろんな人で溢れていて、ここにいるおじさんとアラフォーの私のことなど誰も気にしていなかった。

たくさん人がいるのに二人きり。夜風に吹かれて私の心は踊っていた。

私はマサさんに会いに来たのだ。おまけでおじさんと会ったのだ。でも心がどんどん違う方向に動き出しているのが分かった。

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