Tinder#冬の人-⑥

当日はお店の中で待ち合わせることにした

駅で『はじめまして』「こちらこそはじめまして」と出会い系特有のお決まりの挨拶を交わしたくなかった

立派なアラフォーなんだけど、幼稚でロマンティックなんだろうな。二人の出会いは特別だって思いたかった

その頃、私はTwitterで“男女の出会いは出会って8秒ルール”というものを拝読していた

なんでもいい出会って8秒以内に相手を褒める言葉を口にする。特別な事じゃなくていい。「背が高いんですね」程度でよい。そうすると相手から好印象を受けることが出来て、男はこれに弱い!!

私は単純だからこれを冬の人に試そうと真剣に思っていた

先に店に着いた冬の人から『嫌いなものがなければ適当に注文しとくよ』と言う連絡と『カウンターに並んでいる男女の並び方が男が左で女が右なんだけど、なんでだろう?』とメッセージが来た

駅から早足で店まで向かっているのを分かっていて、この質問を投げかける彼は変わっていた

「嫌いなものはないからハイセンスな注文よろしくね。その男女の並びについての解説なお店に着いたらする」と返信した

冬模様の土曜日の夜は沢山の人で賑わっていた。店の扉はガラス張りでカウンターがそこから見えた

カップルだらけの中、居心地が悪そう過ごしているのはひとりだけだったので、すぐにその人だと分かった

私はガラス張りの扉で鼻が赤くなっていないか最終チェックをして扉を開いた

Tinder#冬の人-⑤

『見つけてくれてありがとう』

そうメッセージが返ってきた

「見つけ出せてよかった。もう勝手に居なくならないで!居なくなる時はちゃんと言って!」

私はそう伝えて、冬の人に個人の連絡先を聞いた。もう同じ想いをしたくなかった。冬の人は変わっていて、LINEをインストールしていなかった。

「LINEをインストールしていない人に初めて出会ったよ」

『あんまり人とかかわりたくないから』

そう言いつつもインストールしてもらったLINEの交換をした。ホッとした反面、私はどこかでこの人はこんな風にまた消えてしまう人かもしれないと不安だった。一度されたことは心に残るのだ

私は彼に直接会って話をしたいと伝えた。会って私を知って欲しかった。言葉ではなく、冬の人そのものに触れたかった。

その2週間後に会う約束をし、お店は私が探した。お店選びも当日着ていく洋服も、その前に行こうと予約した美容院も全てがワクワクした

時々、こんな風に恋愛に依存して誤魔化しているのか、もともとそういう性格なのか分からなくなる

ちょっとだけ不安になる

『美味しかったね』が聞きたいのと同時に既婚者である彼のお財布事情が分からず、カジュアルなスペインBALを選んだんだ

初めましてだからカウンターの横並びの席にをお願いした

正面だとやっぱり恥ずかしいから。アラフォーになっても惹かれる人と出会う時はいつもこんな具合になる

天国での誕生日

今日は天国にいる親友の誕生日だ

そもそも亡くなった人間の誕生日おめでとうはどう考えてもおかしい気がするのだが・・・・

そこは置いといて

親友は最後の方は、お皿にスプーンやフォークの当たる“カチャ”という音に恐怖を感じていた。パスタもカレーもみんなで木の箸で食べていた

もしこの先に木の箸の音が嫌になったら手掴みで食べたって良かった

それがもしレストランで白い目で見られようが平気だった

私は彼女との食事が好きだった

彼女が天国にいっても生活は今も大きく変わっていない

ただ彼女を失って間違いなく私の生涯大笑い回数は減った

彼女と深夜まで話し込んで、泣いたあと大笑いした。今度は大笑いし過ぎて泣いていた

まだ彼女のことを思い出して泣いてしまう。そんな自分を否定もしないし、我慢もしない

私はきっとこの先もクヨクヨと泣く

それを素直にするのは、彼女がそういう私を一度たりも否定しなかったからだ。クヨクヨする私も調子に乗って惚れっぽい私も“nanaちゃんらしくていい”とよく笑って言った

また一緒に笑える日まで私は私らしく

今日も明日も明後日も命がある限り生きるのだ

Tinder#冬の人-④

新しくアカウントを作り直して、写真は冬の人が分かるように同じものにした。プロフィール欄には

「たったひとりの人を探すためにリトライしています」

と読んだ人がマッチングを避けるような内容にした。誰かとマッチングしたいわけではない。冬の人とだけマッチングしたいのだ

ひたすら画面をスワイプした

彼が東京に戻っている期間はアプリの機能で距離が離れて過ぎていてマッチングしないのは分かっていた

(GPSで距離が判定されるので170キロ以上だとマッチングしないシステム)

冬の人が東京に居る時は247キロ

こちらにいるときは25キロだった

そして彼を見つけた

たった一回だけ使えるスーパーライクを押した。これで彼が気がついてメッセージが返信されればマッチングとなる

もうやるべき事はやった

この後の選択は彼次第だった

Tinder#冬の人-③

冬の人との言葉のやりとりが好きだった

この人となら分かり合える予感がしていた。数千の人とマッチングした。ハイスペックでイケメンもいたのに私が心惹かれたのは陰と陽で言えば陰の冬の人だった

出会いにはタイミングがある。縁もある。結びつく相手とはその二つが揃う。お互いの想いとはまた別のもので、神様は時々意地悪をする

頭の中で何度も冬の人とは縁がなかったのだと繰り返した

惚れっぽいのだ。触れてもいない人に言葉のやり取りだけで惚れていた。自分でも呆れる

冷静になろうと10日ほど時間が流れたが、私の冬の人への想いは変わらなかった。私は迷うことなくTinderのアカウントを削除することにした

アカウントを削除して、再度アカウントを取得すればマッチング解除された相手でも新規アカウントと認識される

マッチングした3500人は捨てた

迷いなく!

冬の人がまだTinderにいるという保証はなかった。それでもみっともなく足掻こう。自分の気持ちを成仏させてあげよう!そんな気持ちだった。

「見つけ出して縁を繋いでみせる」

私はこの惚れっぽいさと潔の悪さでいつも痛い目にあう。分かっていてもそういう性分なのだろう

彼を探す冒険の始まりだった

Tinder#冬の人-②

二週間ほど前、私達は言葉を紡いでいた。お互いに“もし会ったら”の想定の話を少しするようになった

冬の人がいつもの通り、私に質問をした

『食欲、睡眠欲、知識欲、性欲、独占欲に順位をつけるとしたら?』

私は

「1位は同率で食欲と睡眠欲。健康に直結するから。2位は知識欲。で、今週のスポットライトで性欲。独占欲は圏外かな。」

と答えた。冬の人は

『1位が知識欲、2位が同率で食欲、睡眠欲、性欲。独占欲は苦しいから無欲になりたい』

と返事が来た。私はこの質問をとても不健康に捉えてしまった

「独占したかった人がいたのね、それが伝わって寂しい」

私はそう返した

『そんな思いさせてごめん』

「大丈夫、慣れてるから」

金曜日の深夜のメッセージのやりとりはここで終わった

翌日、寝坊助をしてアプリを開くと彼の名前が無くなっていた。どんなに探してもなかった

LINEでいうブロックと同じ行為。マッチングを解除されていたのだ

それは彼を傷つけてしまった代償だった

Tinder#冬の人-①

今考えても彼を右スワイプした記憶がない。操作ミスでもしたのかもしれない。あとから見返しても、ボヤけた本人とは分からなく加工された一枚の写真を見て魅かれるものはなかった

けれど、何故かマッチングして何故かメッセージを私は送った。飽和状態にあったイケメン達に飽きていたのかもしれない。

年齢39歳

職業Webデザイナー

という肩書きだった

私はその人を冬の人と呼んでいる

マッチングアプリではメッセージのやり取りは3リターン程で割り切りった関係を求めている人はそういった内容を送ってきた。まともにメッセージをやり取り出来る人は少なかった

冬の人はそういった類の内容を一切送ってこなかった。ショートスリーパーだと言う彼は深夜、私が寝る前のやり取りに根気よく付き合ってくれた

メッセージの内容が他の人にはない秀逸さがあった。秀逸とまでいうと大袈裟だが私にそう感じた

『nanaは性善説を信じる?性悪説を信じる?』

内容はいつもこんな感じだった。私は持論をツラツラと送り、冬の人がそれに対しての分析をしてくれた

屁理屈好きな私には心地よかった

変な論議の合間に少しずつお互いの状況を交換した

冬の人は東京出身で、単身赴任でこちらにきていた。自転車で通勤をしていた。奥さんと子供が二人いた。子供は女の子と男の子一人ずつだった。人と繋がるのがあまり好きではない人だった。石原さとみより池田エライザが好きだと言って、音楽と映画に詳しかった

もう他の人とのやり取りは激減して、冬の人とのやり取りを楽しむようになっていた

Tinder#補足

Tinderというマッチングアプリは基本的に無料で利用出来る

※Tinderのステマじゃないです

然し、課金をするとパワーアップ出来る機能が追加される。無課金の場合、自分がいいねされた人数もしてくれた人の詳細も分からない。ひたすら画面をスワイプしてマッチングするのを待つのみ

私はふと自分がどれだけの人にいいねされているかをどうしても確認したくなった。課金の仕組みはさすがなもので、一年間課金すると大幅割安で、一ヶ月だと割高だった。私はお化けみたいに膨らんだ承認欲求を満たすために三千円越えの課金をした

本当にバカだ

しかし、課金した成果はあった

41歳、既婚、口元の写真のみ

自己紹介はそれなりに工夫し、興味を惹かれるようにした

その結果いいねされた人数はわずが二ヶ月程だったにもかかわらず

3500人だった

これには驚愕した。Tinderのノウハウを有料で販売している人もいるのだ。私も販売できるレベルなのではないかさえ思ったほどだ

3500人から選び放題・・・

自己承認を満たすには充分なものだった

Tinder#3

この頃になるとマッチングアプリへの感覚が麻痺していた

もう何を基準で選んでいるのか分からなくなっていたし、何がしたいのかも分からなくなっていた

ただ定期的にやり取りする人を探し、旦那氏の夜勤で寂しい夜をやり過ごす為のツールなっていた

アプリ内では何人ともマッチングをして、同時進行でやり取りをしていた

突然の別れの後遺症だったのかもしれない。『会いたいよ』『絶対に美人だと思う』そんなありふれた言葉に自己承認を満たしていた

ジョンと会ってからしばらく時間が経っていたので、セックスがしたかっただけかもしれない

個人の連絡先を交換した30 代の翔という子と会う約束をした

最初からホテルに行くつもりで待ち合わせをしていた

翔はドイツ育ちのバイリンガルで、独身のサラリーマンだった

会った途端『若く見える!』と本音だか何かも分からないお世辞を言われた

ホテルに入ってセックスをした

ノーマルな普通のセックスだった

翔は健康的な人で一度、ひとつになったすぐ後にまた元気になり、口に出したいと懇願された

私が拒否するとあっさりと諦めて、『手の平に出させて』と言われた

酷くびっくりして、そうすることによってどのような気持ち良さがあるのか謎でしか無かった。翔の言われるがまま手の平を出すと翔は自分で自分のモノを触って白い液体を出した

初めてされたそれは温かく、出されたそれをどうすればいいのか?どんな顔をしていればいいのか?何も分からないままだった

ピロートークで翔が『アメリカの大学にいた時に彼女にいつもアソコが小さいって怒られてて、nanaは大丈夫だった?』と笑って言われた時に、アメリカでは肉体的欠陥をストレートに言うのだなぁ~。日本ではタブーだよな。と全くもって別の事に思いふけっていた

翔とは一回きりのつもりで会ったが、彼からコンスタントに連絡が来たのは驚きだった

そして彼のイチモツは決して小さいものではなかった

Tinder#2

独身男性の方が自分に合わせて自由な時間が作れると思い込んでいたが、既婚者の生活状況、付き合うスタンス、会話のスムーズさを考えた時に、私は既婚者も視野に入れることにした

そもそもマッチングアプリなので、相当振るいにかけないとリスクがある

映し出される数枚の写真には自分の子供も堂々と開示している人もいて、私は一体ここで真の探し求める人に出会えるのか訳が分からなくなっていた

ジョンの次に目をつけたのは他県出身で、私の暮らす県に単身赴任をしている36歳の男性だった

単純に顔が好みだったのと、銀行マンの時の二の舞で家族にバレてお別れという可能性が低いと踏んでいた

1ヶ月半ほどのやり取りの後に、居酒屋で食事をするとこにした

彼は写真と変わりなくイケメンと言われる分類の人で、明るく屈託のない人だった

お酒を飲んで、打ち解けた頃に過去の恋愛話になった

彼は過去にも不倫をしたことがあり、その時に奥さんにバレてしまった話を面白いおかしく話してくれた

私は笑って聞いたが、これがダメだった

いつか私がこの笑って話される人になるのだと不快だった

明るく屈託のなさが彼の欠点

単純に私とは合わないというインスピレーション

誰かが言っていた。運命の人だというビビビっという直感はよく外れる。けれど、違和感は外れることはない

私自身も「この人と結ばれるかも」と思って結ばれなかったことは多々あったけれど、「この人と合わないけど寂しいから一緒にいよ」って時は痛い目にあった

ほんの少しの違和感を信じた

帰り道、向こうは甘いムードに持ち込んできた。単身赴任の家に誘われた

ベンチに座って手を握られて甘々なムードで追い込みをかけられた

途中「歯にネギがついてるで」と指摘された

居酒屋のトイレが暗くて気が付かなかった。歯に青ネギが挟まった状態で口説かれた女がこの世にいるだろうか?

私は終始曖昧な態度を繰り返しつつ、彼のプライドをその場は守って家路に向かった

彼からはその後当たり障りのないメッセージがきて、それに当たり障りのない返事をして終わった

あと何度この繰り返しをすれば良いのだろうか?疲労感しかなかった