Tinder#冬の人⑧

『なんで左側の方が落ち着くの?』

「人って左側に心臓があるでしょ?心臓がある場所よりもなるべく距離を保った方が本能として安心するのよ。つまりね、ここにいる私たち以外の6組のカップルは初対面ではなくある程度打ち解けた関係であることが見て取れる」

『ということはnanaはまだ僕に打ち解けてないってことだね』

「貴方にって言うよりも私は臆病者で警戒心が強いのよ」

『いつかこの6組のカップルみたいにnanaが右側にきても落ち着くようになれるといいね』

私はもうここら辺で心を持っていかれていた。完全に。完璧に。するりと

自称Webデザイナーの冬の人の職業は全く違っていて、本当はマスコミ関連だった。彼が躊躇することなく勤務先名を教えてくれたので、私は二人の距離が近づくのを感じた

採用試験の面接で超好感触と言ったところだろう。相変わらず私はヘラヘラしていた

仕事のこと、家庭のこと、一瞬の隙間もなく話し続けた。レモンビールを二人してお代わりして、大きなグラスが三杯空になった

冬の人が『飲み物も料理も美味しい。程よくガヤガヤしている。いいお店を予約してくれてありがとう』と言ってくれた。

『実はとてもドキドキしていた』そうも言ってくれた。

そしてそれを口にしたのはドキドキしているにもかかわらず、それを私に伝えたいという合図だと受け取った

私はポジティブだった。そしてまたヘラヘラと笑っていた

人気のこのお店は18時からの予約で2時間過ぎたところで“次のお客様がお待ちですので”と会計を促された

店に入る前にしたようにガラス張りの扉で、私はもう一度自分の姿をチェックした。占いも何も信じないけど、ちょっとした験担ぎだったのかもしれない

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