Tinder#冬の人-⑨

店の外に出るとまだワイワイガヤガヤと賑やかだった

寒々しい木々には気の早いイルミネーションが取り付けられていて、冷たい空気がネオンとイルミネーションを効果的に演出していた

冬の人が

『まだ大丈夫?』

と聞いてくれた。私は「うん」と答えてから「さっきはご馳走様。これ良かったら」と手土産を渡した

味海苔と瓶詰めの牛しぐれ煮を選んでおいた。単身赴任の家にあっても不自然じゃないもの。消えてなくなるもの

『味海苔、大好きなんだ。ありがとう。俺は何も用意してなくてごめん』

と言った。そして

『寒い、寒い』

と大きな声で言ったあとに手をそっと繋いでくれた

私はそれを拒否する理由はなかった。秋の人と突然別れが来たように、不倫という関係はお互いの気持ちが一致した時にその気持ちに素直になっておいた方がいいものだと強く思っていた

『どこかお店でも探そう』

そう言って少し歩いて、奥まった路地の途中で立ち止まってキスをした

会う前のやりとりで意志を伝えていた

“これは仮定の話。もしも二人が男と女の関係になったらその時は素直に気持ち良くなろう”

冬の人は男で、私は女なのだ

冬の人はキスをした後に臆することなく

『とても気持ちがいい。一度キスしただけでそれが分かる』

といい、私はこう返した

「一度だけ?」

そして冬の人がもう一度キスをしようと顔を近づけたのをわざと交わした

男性がキスを不意に交わされると、雄の顔を見せることを知っているから、わざと交わした

ゆるりとしたキスがしたいから絶対にキスをするに変わる瞬間

絶対にキスをする

のキスの方が好きだから

私は冬の人から絶対にキスをするという雄の本能みたいな深いキスをもらった

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